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大阪高等裁判所 昭和36年(く)71号 決定 1961年12月16日

少年 M(昭二一・一二・六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件申立の理由の要旨は、右少年は七人兄姉の末子であつて○○市立第×中学校第三学年に在籍する学童であるが今夏季中悪友小○少年らと交際するようになり、その悪感化を受けて、今回の数々の非行を重ねるにいたつたものである。従来父が家庭の事情から七、八年家族らと別居生活を続けていたけれども本件を契機として私生活を改め長兄も亦少年に対する今迄の徒に冷厳な態度に過ぎたことに反省し、今後家族一同が愛情をもつて少年を更生に導くため努力し、なお環境を改めるを最大の急務と考え少年を母の実家である福岡県○○町△△に移し新たな境地で少年の身心の健全化を計ることにより少年の矯正が可能であると確信する。そうであるのに少年を初等少年院に送致するとした原決定は著るしく不当であるから、その取消を求めるというにある。

よつて本件記録(少年調査記録を含む。)を調査するに、少年は父○雄(当五五年)母○子(当五〇年)との間に出生した同胞兄姉七人の末子にして父は母が少年を懐胎中、当時戦時疎開で同宿していた○田某女と懇ろな仲となり妻子を捨てて同女と同棲し、その頃から家族と別居生活を続けており、少年は母の手により養育せられ最近他の兄姉と格別意思の疏通を欠いている気配がないが一家の支柱である長兄に対し自己に対する処遇が厳しいとして不満をもち、母の盲愛に溺れ且つ一家において兄姉との年齢差大であり末子として育てられた関係も手伝い自己中心的であり内省力、自己統制力に欠け放逸的傾向の性格強く日常所謂こわいものなしの自分勝手な行動に終始し保護者である母及び長兄には少年に対する指導教化の能力に欠けるものとの感が深いこと、

次に原決定各事実につき少年が加工した態様をみるのに、少年は単独又は原決定記載の小○少年らと共謀して、昭和三六年六月中旬頃から同年九月中旬頃までの間に

(一)  前後一九回に亘り前記在籍中学校内又は校外において同級の中学生、その他の学生らから一〇円乃至二、一〇〇円の各現金を喝取し、

(二)  三回に亘り右校内又は校外において級友又は学生に些細なことに云いがかりをつけ殴打、蹴るの暴行を加え、

(三)  九回に亘り路上の掻払い、浴場における盗み、又は不在中の他家に忍び込むの各方法により現金、腕時計、トランジスターラジオ等の金品を窃取し、

(四)  面識のあるのを利用し中学生川○真○(当十四年)を甘言を用い○○市△△所在の○○園に連れ込み同少女を強いて姦淫し、

(五)  同様の製本女工○田○子(当十五年)を姦淫の目的で○○市○○小学校内プール付近に誘い込み同少女に挑みかかり哀願せられて右犯行を思いとどまつたものの今度は同女に強いて接吻を為しその乳房を弄し果ては同女に命じて無理に自己の陰茎をもたせて自涜行為をさせる

など数々の目に余る悪質な非行を重ね右姦淫、強制わいせつの各所為は少年単独で敢行し、その他右恐喝、窃盗の非行のうちには同様単独で行つていることもあるなどに徴し、偶然悪友に誘われその尻馬に乗つて犯したというような単純なものとは認められず、右各非行の動機、態様、回数等に照し、その非行は慣行的であり悪性は高度化し、根深いものであるを感じさせる。そして○○教育委員会及び学校当局においても少年に対する保護者の無理解、非協力振りに鑑み学校の補導だけでは更生至難であり、他生徒への悪影響を防止し学校教育全体の保持上少年に対し適切な措置を望んでいることが窺えるのである。

前示のとおり少年の非行癖の高度化し今や在宅保護の限界を超え又保護者の家庭環境又従来の経緯に照し考えると少年に対する指導能力が十分でないとの結論を否定し得ず、原裁判所においても所論少年を福岡県下に移住させるとの案を考慮に入れてなお少年を初等少年院に送致すべきを相当とするとの結論に達したことが窺えるのであるが、当審においても慎重熟慮の結果原決定は相当であると認めるので本件抗告はその理由がないから少年法第三三条第一項により主文のとおり決定する

(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 若木忠義)

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